前回は法律婚をすると二人の間にどのような権利や義務が生まれるのかをご紹介しました。
では婚姻届を提出せず夫婦として生活する「事実婚」であれば、そのような義務から自由になれるのでしょうか。
また権利を奪われてしまうのでしょうか。
「実際、籍を入れていないのだから法律上においてもただの恋人同士なのでは?」
そのように思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実は一概にそうとも言えません。
事実婚では法律婚のように婚姻届を提出して法律上の夫婦になるわけではありませんが、
夫婦として共同生活をしている実態などがある場合には法律婚と似た権利や義務が認められることがあります。
今回は前回ご紹介した法律婚の7つのポイントと比較しながら、事実婚ではどうなるのかを見ていきます。
夫婦の氏を同じにする必要はない
法律婚をすると夫婦は夫もしくは妻のどちらか一方の氏を選び、同じ氏を名乗ります。
一方事実婚では婚姻届を提出しないため、戸籍上の氏は変わりません。
そのため二人ともこれまでの氏をそのまま使い続けることができます。
氏の変更に伴う各種名義変更の必要もありません。
夫婦別姓が認められていない現状において、この点を理由に事実婚を選ぶ方もいらっしゃいます。
法律婚と事実婚の分かりやすい違いのひとつともいえるでしょう。
事実婚でも「同居・協力・扶助」が求められることがある
民法752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。
そのため法律婚には「同居・協力・扶助」が求められている訳ですが、
実は事実婚においても夫婦としての実態がある関係については法律婚と同様に共同生活を維持するための義務が認められることがあります。
事実婚は条文がそのまま直接適用されるわけではありませんが、
判例上「内縁関係(法律上の婚姻届をしていない事実上の夫婦関係)についても夫婦共同生活を維持するための協力・扶助義務など、婚姻に関する規定の一部が類推適用(似たケースに同じルールを当てはめること)される」と考えられているためです。
つまり「籍を入れていないから、相手を支える義務もない」と単純には言えません。
事実婚であっても夫婦として共同生活をしている実態が認められる場合には、お互いに支え合う関係として法律上評価されることがあります。
生活費の分担も事実婚で問題になることがある
法律婚では夫婦の婚姻費用(生活費等)を分担する義務があります。
そして事実婚でも婚姻費用の分担が問題になることがあります。
先述の同居・協力・扶助の義務と同様、婚姻費用について定めた民法760条も類推適用が認められる判例があるからです。
そのため「事実婚だから生活費は完全に各自負担」というわけにいきません。
二人の収入や生活状況などによっては、一方がもう一方の生活費を負担することが求められる場合があります。
事実婚でも別れるときには財産分与が問題になる
法律婚では婚姻中に夫婦が協力して築いた財産について、離婚時に財産分与の対象となることがあります。
そして事実婚も解消する際には財産分与が問題になることがあります。
実際に裁判例でも「内縁は実質的に夫婦共同生活関係であり、その共同生活の中で形成された財産関係を清算する必要性は法律婚と変わらない」として財産分与に関する規定の類推適用が認められています。
(例:高松高裁昭和56年9月28日決定)
つまり「籍を入れていないから自分名義の財産は全て自分のもの」となるとも限りません。
二人が共同生活の中で協力して築いてきた財産については、事実婚であっても関係解消時に清算が問題になることがあります。
※なお、事実婚でも一定の要件を満たす場合には関係解消時に
厚生年金の年金分割の対象となることがあります。
事実婚関係にあった期間中、一方が他方の被扶養配偶者として
第3号被保険者であった期間がある場合などに対象となります
事実婚でも不貞行為が問題になることがある
「婚姻届を出していないなら浮気をしても法律上問題にならない」というわけでもありません。
事実婚関係が成立している場合には夫婦としての貞操義務が認められ、不貞行為によって慰謝料請求が問題になることがあります。
なぜなら事実婚も単なる恋愛関係ではなく、婚姻に準ずる共同生活関係として法的保護の対象となり得るためです。
そのため二人の関係を不貞行為によって侵害した場合、法律婚と同様に民法709条・710条の不法行為として慰謝料の問題になることがあります。
つまり事実婚は「法律に縛られない自由な恋人関係」というわけではありません。
実態として夫婦関係が成立していれば、その関係を守るための法的責任が認められる場合があります。
事実婚に「離婚届」は必要ない
ここは法律婚との大きな違いです。
法律婚では婚姻関係を終了するために離婚の手続が必要ですが、
事実婚にはそもそも婚姻届を提出していないため関係を解消する際に離婚届を提出する必要はありません。
そのため届出を用いた形式的な手続によらず、当事者の意思や共同生活の実態などから事実婚関係が解消したと判断されることになります。
ただし「離婚届がいらない=何の問題もなく一方的に終わらせられる」という意味では決してありません。
関係解消について当事者間で話し合いがまとまらない場合には、財産分与や慰謝料などが問題になることもあります。
事実婚のパートナーには法定相続権がない
ここも法律婚と事実婚の非常に大きな違いです。
法律婚の配偶者は相手方が亡くなった場合には常に相続人になりますが、
事実婚のパートナーは長年夫婦として生活していたとしても、法律上の「配偶者」として法定相続人になるわけではありません。
そのため相手に財産を残したい場合には、遺言など別の方法で備える必要があります。
法律婚とよく似た義務や保護が認められる事実婚においても、相続については大きな違いが残っています。
事実婚は「何にも縛られない関係」ではない
ここまで見てきたように事実婚には法律婚と異なる部分がある一方で、意外なほど法律婚と似た権利や義務が認められることがあります。
事実婚には氏を変える必要はなく、関係解消の際に離婚届は必要ありません。
法律婚の配偶者のような法定相続権もありません。
その一方で、夫婦としての実態がある場合には
・生活を支え合うこと
・生活費を分担すること
・関係解消時に財産を清算すること
・不貞行為について責任を負うこと
などが法律婚と同様に問題となります。
よく一口に「法律婚を選択せず、事実婚をするなんて無責任だ」とおっしゃる方がいます。
しかし、事実婚だからといって責任がないわけではありません。
生活を支え合う義務や金銭面では、法律婚と非常に近い扱いを受ける部分もあります。
「事実婚=何にも縛られない自由な関係」とは決して言い切れないのです。
では、そもそも「事実婚」とはどのような関係をいうのでしょうか。
どういった要件が必要なのか。
何年か一緒に暮らす必要があるのか。
同棲とは何が違うのか。
住民票を「夫(未届)」「妻(未届)」にする必要はあるのか。
実は、事実婚には法律婚のような「この届出をすれば成立」という分かりやすい線引きがありません。
次回は「そもそも事実婚とは何か」をテーマに、同棲との違いや事実婚が認められるための考え方について詳しく見ていきます。

コメント